ハイチ こんにちは! 4章 刑務所
ハイチ こんにちは!
著者 イ·ハンソル
初版 2023年8月17日 3刷 2023年12月20日
夢も生活の場も失ったハイチの人々に
愛と希望を植え付けたイ·ハンソルの物語
ハイチへ行くイ·ハンソル宣教師夫婦
iPad
ハイチで宣教を始めた後、忘れられない事件があった。当時、私たちは教会を始めたばかりで、一般の家庭を借りて庭に木を立ててテントをかぶせてそこで礼拝を捧げた。教会は地震の被害を受けた人々が集まって住むテント村のすぐ隣に位置していた。住民がほとんどテントで暮らす町だから、うちの庭に作ったテントも気まずくなかった。教会には学生と青年がたくさん訪ねてきた。私たちは彼らに福音を伝えて教育もした。
ある日、教会に出て来る青年が主日の午前の礼拝にiPadを持って出席した。当時はiPadが珍しくなかったし、特にハイチで現地人がiPadを持っているケースは珍しかった。自然にその青年が持ってきたiPadに人々の目が向けられた。
「わぁ、これは何ですか?」
礼拝に参加した学生たちと青年たちが不思議に思いながらiPadに関心を持った。その青年は自分にアメリカ人の友達がいるんだけど、よく英語の通訳をしながら友達を手伝ってあげたらiPadをプレゼントにあげると言った。みんながそんな高いものをプレゼントしてくれる友達がいるのかと、羨ましさが混ざった顔でその青年を見つめた。
午前の礼拝を終えて午後にちょっと休んでいたら、突然外国人たちと警察の人が礼拝堂に入ってきた。その外国人たちは私たちと仕事面識もなかったけど、固い表情を見ると何かあったことを直感できた。彼らは何も言わずにすぐに我が家に入ってきて、部屋のあちこちを開けて何か探し始めた。いくら警察でも何の告知もなく、全部部屋に入ってきて物を探すのが荒唐無稽で問い詰めた。
「あなたたちが警察だからって、他人の家庭に突然来て何の話もなく部屋をさぐる権利がどこにありますか?警察は私の話が全く聞こえないみたいに、何の返事もせずに部屋の中をずっと調べた。あなたたちが何を探しているのか分からないけど、探しているものが出てこなければ、私たちも黙っていませんよ!」
私は腹が立って脅した。
そうやっていざこざしていると、ある兄弟が静かに私を呼んだ。
ハイチは1年中真夏のように暑くて電気がないところが多いから、主日になると夜明けの礼拝を本礼拝で捧げる教会が多い。知ってみたら、うちの教会にiPadを持ってきた青年が、その日の夜明けに他の教会に行って礼拝をして、外国人が持っていたカバンの中のiPadを盗んで逃げたのだ。iPadには「私のiPadを探す」というGPS機能があるんだけど、その事実を知らなかった青年はうちの教会に来て友達がくれたと自慢していたのだ。iPadを紛失した外国人が自分のiPadがどこにあるか検索してみたら、うちの教会の住所が出て、警察に通報してその日の午後に一緒に礼拝堂に襲いかかったのだ。でも、その青年は警察が入ってくるのを見てすぐ逃げた後だった。
私はやっと警察が私の家に訪ねてきた理由が分かった。彼らは自分たちがiPadを探しているという事実を私たちが知ったら、隠すことを恐れて言わずにiPadを見つけ、訳も知らないまま捜索されることに腹が立った私は、彼らといざこちを繰り広げたのだ。前後の事情を知った私は悩みに陥った。アフリカのいくつかの国のように、ハイチでも盗みは重犯罪に当たる。地方では盗みで捕まった人をタイヤに入れて火に燃やすこともあるほど重い罪とみなす。ところで、iPadを盗んだ青年はもう20代前半の若者だった。もしかしたら長い間刑務所で時間を過ごさなければならないかも知れなかった。一瞬の誘惑に勝てず、花らしい年齢で前科者になって一生を生きていくことを考えると心が痛かった。だからといって、私は知らないことだと嘘をつくこともできなかった。
私は悩みに陥った。本当のことを言うと、青年が刑務所に行かなきゃいけないし、知らないことだと引き離して嘘をつくこともできない役だった。ずいぶん悩んで、まずiPadをなくした外国人と話してみようと思った。その人に先に私の紹介をした。
「私はこの教会の宣教師です。少し前に、ある兄弟からあなたたちがなぜ私たちの教会に訪ねてきたのか聞いて状況を知りました。」
彼は何も言わずに私の話を聞いた。
「何らかの理由であれ、私たちの教会の聖徒がそのような不愉快なことを犯したなら、責任を負ってお手伝いします。iPadを必ずお探しいたします。」
固まっていた彼の顔が少し伸びた。私は言った。
「理由を問わず、私たちの教会の聖徒がそのようなことをしたので、私が代わりにお詫び申し上げます。」
彼の顔がもう少し和らぐようだった。彼は自分も宣教師なのに、ハイチに何日か滞在中にそんなことがあって気持ちがよくないと言いながら、私が謝ることではないのにそう言ってくれてありがとうと言った。私は言った。
「ただ一つお願いしたいことがあります。iPadはちゃんと探して返してあげて、その青年は私がよく言い聞かせて教えてみるから、iPadを探すなら、その青年が刑務所に行かずに私たちがもう一度教育できるように許してもらえますか?」
私が慎重に尋ねた。
「もちろんです。私も宣教師です。私はiPadを探すのが目的で、人を刑務所に送るのが目的ではありません。iPadに中の重要な資料があまりにも多くて必ず探そうとするのであって、その青年が間違っていることを願う気持ちはありません。」
答えを聞いたら少し安心した。iPadさえ探せば仕事がうまくまとまりそうだった。苦労して生きるあの青年にとって、iPadはどれだけ大きな誘惑だっただろうか。青年が罪を犯したのは確かだが、私はそのことで彼が神に振り返って新しい人生を送るようになることを願った。でも、いくら電話をしても青年は電話に出なかった。怖がって、もうどこかに隠れたんだ。連絡する道がなかった。何人かの兄弟が家に訪ねてみたけど、青年は警察が家まで訪ねてくることを考えて家にも行かなかった。
私たちはその青年にメールを送った。外国人と交わした話を伝えて、iPadだけ返せば心配することは起こらないから、何も心配しないで、iPadだけ教会に持ってくるように言った。青年がiPadを持ってくること以外にできることがなかったから、私たちはただ待つしかなかった。
いつのまにか日が暮れる頃になった。待ちどおしく青年を待っているのに、礼拝堂の扉が慎重に開くのが見えた。そして町に住んでいる小さな女の子がiPadを持って中に入ってきた。
「宣教師さま、私が道にいたのですが、あるおじさんがこれをくれながら、あの教会に行って宣教師に伝えてくれと言いました。」
青年は自分がiPadを持ってきたら、もし警察が逮捕することを心配して、その子を通して送ったのだ。急いでiPadを持ち主に伝えてあげたら、自分がなくしたiPadが正しいと言って、早く探せるように手伝ってくれて本当にありがとうって言ってた。もしその青年が最後まで来なかったら状況が悪化するかもしれないけど、幸い私たちは午後遅くにiPadをもらうことができた。そうやって全ての状況が終わるようで感謝した。
刑務所
警察たちは、この事件が警察署に受理されたから、警察署に行って処理しなければならないと言って、私と外国人が警察署に行って調書を作成しなければならないと言った。私は何も考えずにうちの教会の現地伝道師と兄弟1人を連れて警察署に行った。調書を書く警察官に向かい合ってテーブルの前に座ったが、彼は状況をすでに知っているからか、私たちに何も聞かずに書類を作成し始めた。それからしばらくして、あ、iPadをなくした外国人たちに帰ればいいって言ってた。彼らが席から起きるから、私も行けばいいのかと思って体を起こした。すると、突然2人の警察官が私の腕を後ろにして縛って私を捕縛した。
「どうしてですか?どうして私を縛るんですか?」慌てた私は彼らに問い詰めて、彼らは私に前に座っていた警察官が書いた調書を見せてくれた。そこには韓国から来たイ・ハンソル先生が外国人のiPadを盗んだと書かれていた。あまりにも荒唐無稽で、私が盗まなかったことをあなたたちも知っているし、あの外国人たちも知っているんじゃないかと言ったら、彼らの答えが見ものだった。
「あなたが盗んだか盗まなかったかは重要ではありません。この書類にあなたが犯人とされているので、現時間からあなたは犯人であり、それで逮捕します。」
最初にiPadを探そうと私の家をさぐっていた警官たちと私がいざこざしたんだけど、物は見つけたけど犯人を捕まえられなかったから、調書を飾って私を犯人にしたんだ。とんでもないことだったけど、常識が通じなかった。
「私が盗まなかったことをあなたたちも知っているじゃないですか。」
いくら話しても、彼らは私の言うことを聞かなかったふりをした。その場に立って、私が持っていた携帯と財布とパスポートなどを奪われた。一緒に行った2人も逮捕された。書類に私たちは共犯者だった。いくら話しても聞かなくて諦めて、そこにどれだけいなければならないのかと聞いた。彼らは裁判をしないから自分たちも分からないと言って、短いのは数日長くは数ヶ月もいなければならないと言った。そうやって私の人生で初めて刑務所に入った。
刑務所の中はサウナに入ったように言葉も言えないほど暑かったし、ゴミ埋め立て場みたいに汚かったし、中のトイレで漂う悪臭は外でも嗅げるほど酷かったし、息が詰まるほど窮屈だった。